この春に、愛知県の私立医大に正規合格を果たした長野出身のEさんが
GHS本部校に夏期休暇中に訪ねてきてくれたときの話である。
昨年は幾つか一次合格にこぎつけたが、わずか届かなかったとのこと。
二年前に東京・新宿のGHS本部校に在籍していた生徒であり、
GHS長野校ができるまえなので、東京まで出てきてGHSに入塾した経緯がある。
とにかく今年は「正規合格」である。当の私立医大もここ数年は
偏差値65-70程度はないと合格できない難関となっている。
いやいや、難関でない私立医学部などいまや全国どこにでもない。
20年以上まえは、偏差値50-55で入れた私立医学部もあったが、
いまは皆無。もし、現在医師の方で本稿を読まれている方がいらっしゃれば、
ご自身の出身大学の現在の偏差値を確認されることをお勧めする。
・・・というのも「なんとかウチの子でも入れそうな医学部は・・・」という会話は
現在は成立しない、ということを出発点として、
ご子息の医学部受験を考え始めていただきたいからである。
「正規合格」これが近年、どれほどの難事で憧憬の的であるかは、
少しでも医学部受験にかかわった人なら身にしみてわかるはずであるが、
これから・・・という方たちのために端的に述べておくと、
たとえば、東大などは、合格者に正規だの補欠だのという区別はないものである。
合格すれば入学するのがふつうだからである。東大に入りたいから東大を受験するのだから。
ところが、医学部受験生は医学部に入りたいのであり、かつ
私立医大は一人が何校出願してもいいので、合格者は重複する。ある医大に合格しても、
他の合格した医大があれば、そちらに進学する可能性がある。
しかも、昨今は、国立医学部志望者が、少子化と時代趨勢と学費の値下げ合戦などが
相俟って参戦してくるから、国立医学部に行ってしまう人もいる。
いきおい、それを見込んで合格者を多めにだしたり、補欠合格者をだして繰り上げたりする。
トップの私立医大は除くとして、多くの私立医学部への進学者は、補欠からの繰り上がりの
人数が多くを占める。その繰り上がり順をしめす「補欠の⚫︎番」まで発表するものである。
だから、「正規合格した」というのは、国立と併願するような、
あるいはトップクラスの私立医大に合格するような受験生と肩を並べる学力に達した!!
ということになる。狭き門のさらに第一ゲートを正面から突破したわけである。
だからこそ受験生の反応も「すごい!!」となるのである。
しかしながら、失礼は承知ながら、EさんがGHSに来た時、正直なところ、
こんな未来が待っているとは想像できなかった。
出発点は低いというより「無」であった。そんなEさんへの想い出の記。
地方の中高一貫校のジレンマ
Eさんは、長野県内の私立の中高一貫校を出てから、GHSにやってきた。
なんとしてでも医学部にいきたい!!という意気込みと意志は感じたが、
如何せん、受験勉強に入るための基礎学力自体がまったくない。
ここから医学部をめざすとは・・・、
・・・果てしなく長く、遥かに険しく、何の保証もない道であることか・・・
最初の数ヶ月のEさんの高校時代の勉強の薄っぺらさを知るにつけ、
将来に暗澹たる思いにかられたものである。
ふつう、内部進学ができる中高一貫校というものは、そもそも特別な受験指導は
やろうとしないものである。授業は教科書レベルを出ず、その範囲について定期テストで
きちっと点がとれているか、まじめに(徹夜でもして暗記して)勉強してきたか、
教師も生徒もそういうモードになる。テストが終われば忘れてもよい、
また次のテストだ、という近視眼的な、表面的な勉強ばかりが染み付いてしまうもの。
しかし、当然のことだが医学部入試は、高校課程の全範囲から。そのどこがでるかわからない。
膨大ともいえる知識を頭に入れた上で、入試問題を限られた時間で解き切る実力が必要である。
中学入試や高校入試で、難関目指して、しっかりと勉強した経験があればまあマシなのだが
地方では県立高校が優勢なこともあって、私立の一貫校に入るハードルは高くない。
推薦入試と称して、さしたる苦労なく入ると、中学課程の三年分さえ、きっちりと頭に入れることなく
高校課程を迎えることになる。かくして、大学入試の膨大な内容が入る脳細胞になるための
トレーニングの機会を失うことになるのである。
もちろん、内部進学するならならそれでなんら問題ないが・・・・。
そんな環境で高校時代を過ごしたこともあり、Eさんは結果的に、
医学部入試の勉強を始めるための学力に達するまでに2年を要した。つまり二浪である。
しかしながら、英語、数学、生物、化学すべてを入試レベルで再履修できたこと、
いや、はじめてしっかりと応用に耐え得るような基礎をGHSに来たからこそようやく学べたのである。
とても美しい字で、整然としたノートを何冊もつくってその試練に耐えた。
厳しい高校入試をくぐらなかった分、全科目の全知識が入る頭になること自体に一年、
それが実際に頭に入って、なじんで、テストで発揮できるようになるのに一年。
このように、高校が機能しないと、まともな高卒学力を得るに2年はかかるものである。
そうやってはじめて、自分が高校時代に入試に必要なことは何も学ばさなかったことを悟る。
Eさん曰く「中高一貫校になった初年度は、とにかくいい先生ばかりその学年に固めたんです。
つまり、6年に一回だけいい先生グループにあたるけど、私はそのハズレの学年なんです。
今思うと、何一つ入試につながるレベルのことは教わっていなかった・・・・」
これで大きな岩壁を登りきったわけである、が・・・・。
これ以上勉強できない・・・
2年を費やしてここまできたEさんであったが、それはまだ、ただ高校課程をまともに
卒業したレベルにすぎない。もっとも学部を選ばなければどこでもいけるが、医学部になると、
ここから、ハイレベル入試に対応できる、偏りなき学力とスピードを身につけなければならない。
想像してみてほしい。ようやく岩壁をのぼりきったとき、さらに大きな岩壁がそそり立っていることを
入試の挫折で思い知らされ、二年目の終わりに漏らした言葉「私、これ以上勉強できない・・・」
私がEさんから聞いたGHSでの最後の言葉だったように思う。
Eさんの出発点から見上げれば、医学部は高い高いハードルであったから、
これ以上は無理かな・・・・という感じさえ覚えた。
そこから一年後の昨春、Eさんからは音沙汰なく、
さらに今年の合格に報に接するまで、さらに1年の月日が流れた。
聞くと、この間は、基本的には予備校に通わず、一人で勉強していたと。
科目によっては個別指導を受けてはいたらしいが、基本的にはこの2年の学びで、
「あとは自分でやるだけ。たくさんやって身につけるだけ。」ということが分かったのだ。
2年の雌伏の期間、GHSでの学びを身につけるべく、ひたすら実戦レベルの訓練をしていたのだ。
正直いって、「正規合格」は信じ難かった。そういう出発点であったことを知っていたから。
だから心底、嬉しかった。Eさんがもし、最初にGHSの門を叩かなければ、
高校課程の再履修がしっかりできないまま、小手先の暗記に終始し、伸び悩んでいたことだろう。
その出会いから、「正規合格」という歓喜までの4年間、その初心を貫く意志の堅牢さには
惜しみない賞賛をおくりたい。
だから、これを読んだ受験生には、ゆめゆめ「私もあとに続く!!」などと思わないでほしい。
受験生諸君を激励するためにこれを書いているわけではない。
ここまではできない、許されない、と思うなら、なるべく早く別の道を探すべき!!と訴えているのだから。
医学部を目指して多浪して、後戻りできない若者をたくさんみてきた。
これは実に大変なことなのだ。登りきった岩壁の先にそれより高い岩壁があったことに気づいた時の絶望感、
それは、登りきったものでないと味わえないが、そもそもそこまで登れないで挫折する人の方が多いのである。
受験生は、そんな絶望感を受け止めて、そのさらなる岩壁をやっぱり登るしかないと腹を決めて
けっして諦めない根性、それが自らにあるかを真に問うてほしい。
親御さんには、そんな子の姿を、忍耐強く支えていける覚悟があるかを問うてほしい。
その上でのやる気であれば、GHSの教育理念と独創メソッドは、
君にかならず「共鳴」する。たゆまず登っていけばいずれ頂上に到達できる。
その道を指し示すことができるのが「メソッド」という意味である。