本部のチューター制度
11月中には各教科の高校範囲の再履修もほぼ終了し、志望の大学の過去問演習にも熱が入る頃となった。
GHS本部校の「私立医学部専門コース」では、レギュラーの授業の他に、個別指導的なチューターが生徒の担当者となり、それぞれのニーズとレベルに合わせて指導する。GHSのチューターとなれるのは、
(1)医学部生であること
(2)GHS卒生でGHSのメソッドで開眼したこと
(3)指導するのに適性を持っていること
が必要であり、GHS村田代表が受験期間を通してみた評価のもとに本人にオファーがある。
もちろん、私にも「●●くんは教えるのに向いているかな?」という相談は来るが、評価はまず一致する。
一年通して勉強ぶりを見ていれば適性はわかるものである。
先週のこと、日医大生のY君が、岩手医科大の過去問を指導していて、「解答を読んでもどうにも理解できない、「難問」があるのですが・・・」との相談を受けた。もちろん、高校時代サッカーに打ち込みながら、GHSで浪人して成績を大きく伸ばして日本医科大に合格した人物にして、こう言わしめる問題が出ているということである。
岩手医科大と言えば・・・
おそらく、今医師であり、そして受験生の親である方にとっては昔々のイメージは「岩手医科大」とは、「滑り止めの止め」であり、「医学部としてはもっとも易しいところ」であったはず。
それは、昔々の事実であるから、決して批判でも中傷でもないことは同意いただけるであろう。
地方の、単科大学で、私立医学部といえば、昭和から平成の初期まではみな、そんなものだった。
それが常識だった。右肩上がりの経済、少子化もまだ。国立医学部との棲み分けができていた時代だった。
ところが平成の真ん中くらいから私立医学部は軒並み偏差値が上がり、もはや日本には偏差値50前後で入れる医学部は絶滅したということ、このブログでも何度か述べた通りである。
20年ほど前の東京医科大の入試問題もそうだったが、素直で、捻りもなく、教科書プラスアルファのやりやすい良問ばかりが並んでいた。金沢医科、埼玉医科もそうだったし、東京女子医大もそうだった。
それくらいで十分だったのであろうし(難しいと白紙答案が増えてしまう)それくらいのやりやすい問題であれば、多くの受験生は
「これなら解けそうだ、岩手医科ならなんとか引っかかるかもしれない」と淡い期待を抱きやすく、「とりあえず受験する」というスタイルが10年前くらいまでにはあった。
すると不可解なことが起こった。
大都市圏の私立医学部が難化したために、今まで受験しなかった上の層が受験するようになり、そういう受験生は、90%を超える得点を取ってしまう。超高得点の争いとなるから、ほんの1-2点、小問一つのミスで合否が決まったのではないかと思われる合否が頻発した。
すると「日大や日医大に合格したのに、岩手医科は落ちた」というようなほとんど意味不明の事態がGHSでも毎年のように起きた。
GHSからも少なからず岩手医科に進学した者がいるが、皆、優秀であり、偏差値は当然60を超える。・・・・・・
岩手医大異変の契機?
今回、Y君が持ってきた化学の問題は2016年のもの。
「誰でも解ける易しい問題ばかり」から、「日医大合格生も頭を抱える問題までも」出題するようになったのは、
あることがキッカケであるという受験筋のウワサがある。
それは、「2016年の東北医科薬科大に医学部できてから」という。その因果関係を確かめることは困難だが、否定はできない。実際、東北医科薬科の医学部の入試問題は決して易しくはない。これに連動したとみることもできる。
しかしながら、実際のところ、差がつかない問題を出して、小論や面接で調整して・・・(東京医科大で実際に問題となった件)という曖昧な入試制度から脱したかったのではないか。
実際、以前にはいなかったほどの優秀な学生が毎年入ってきている。ならば、
「キチンと学力を見分けることのできる、難易取り混ぜた問題セットを作ろうとしている」
と思って良いと思う。
実際の問題
当の問題は、「有機化学の人工高分子の計算問題」である。
そもそも、人工高分子の問題自体が、多くの受験生の手の届かない領域である。その計算問題はさらに手付かずの受験生も多い。しかも、
「二種類のビニルモノマーを共重合させた樹脂をスルホン化した時の
質量変化から、スルホン化率%を求める」
という問題である。
ハイレベルの一部の受験生を除き、問題の意味さえわからないだろう。
高分子についての確かな知識が前提で、かつ、化学計算の実力が必要である。だから、赤本の解答者(おそらく委託を受けた高校教師)は、大変な苦労をして、数学的に三元連立方程式で解いている。10数行に渡る解答は確かに読むのさえイヤになる。
日医大の学生が、「解答を読んでもわからない」と嘆くのも仕方ない。しかし、これは東大入試に出すと良いくらいの「難問」にして良問である。早速、有機化学アドバンス演習の問題候補にリストアップした次第である。
もっとも、「体系化学」の化学計算メソッドからすれば、立式は、たった一行で済む。
「あー、そうですね、これで一発ですね。未熟者でした、勉強になりました・・」とY君。
体系化学計算の実力はお墨付きだが、初見の人工高分子化合物を正確にイメージして式化して分かりやすく教えるは、まだちと修練が必要であろう。化学計算に「難問」など存在しない。解答者の実力不足を、「難問」という評価でもみ消しているだけである。
伝えたいこと
そこで、是非にここから読み取っていただきたいことは、二つ。
・中堅以下の私立医学部の過去問は、5年以上遡ってやってはならない。
意味がない。難易度がそれ以前とは雲泥の差だから。参考にならない。
・高校の進路指導の先生が
「君、偏差値的には岩手医科大ならなんとかなるのでは・・・」といったら、その甘言を信用してはならない。
それは過去の幻想に囚われているだけ。情報が更新されていないだけ。やるべきことは、偏差値も問題の難易度もほぼ横線一線となった医学部への対策は、ただひたすら、「まともな、本物の実力をつけること」以外にはないと知るべし。
岩手医科大も難化したものである