引き続き、物理についてGHSからのコメントを述べましょう。今回は、GHS本部校・物理講師・田川先生との私とのコラボ企画です。
今回の共通テストは、二次試験に通じる勉強をしっかりとしていた生徒にとっては「準備運動」レベルにすぎず、軽くこなせるような内容で、やや拍子抜け・・・の感もあるはずです。今回の共通テスト物理の特徴を一言で言うと、
「(グラフ問題も含む)定性的な問題の増加」
でしょう。具体的データで述べると、2020年のセンター試験では、全20問中6~8問(選択問題によって多少変化あり)が定性的問題であったのに対し、今年の共通テストではなんと全23問中13問が、定性的な問い、つまり法則式・公式を用いての計算をしなくても答えが出る(「右か左か」とか、「保存するかしないか」とか・・・の)問題であったのです。 2020年のセンター試験の時点でもすでに、定性的問題が多くなる傾向があったのですが、今年ついに定性的問題の方が定量的計算問題の数より多くなったのです。
その中身には簡単な問題が定性的に(計算をしないでも)答えられるという「平均点を上げる方向の変化」と、ハイレベル・難問の系統で二次試験で扱うような題材であり、定性的に問うにとどめて、計算を免除する形にしたという「平均点を下げる方向への変化」の二重性があります。その二つが拮抗して結果的に、後者のベクトルがまさった結果、全国では低めの平均点となったのでしょう。
なぜ定性的問題が増えたのか、共通テストの問題製作者が実際何を考えていたのか、本当のところはハッキリとはわかりませんが、おそらく共通テスト全体のテーマである「思考力を問う」ということの物理的展開として「法則・公式を暗記して当てはめるだけではない」=「法則や公式を使う計算より、物理的理解を問う」となり、式を使わないでも解ける定性的問題を増やそうということになったのでしょうか。
ただ、「物体の運動を定性的にイメージする」というのは、物理的思考の一部ででしかありません。法則がしっかりと量として表現でき、定量的に答えが出せていけることこれは外し難い物理的思考の特質のはずです。運動がイメージできているかを問う問題があるのは勿論良いことではあるのですが、「これは計算させてもよいのでは・・・」という問題まで定性問題に仕立て上げられており、半分以上の問題が計算しなくても解けてしまうのは、物理の問題としてはさすがにやりすぎ、逆にいうと物理的には中途半端なので、実力をつけた生徒にとっては物足らない感が残るのではないでしょうか。おそらくこの点について、来年度は反省と調整がなされることでしょう。
さらに言えば、「計算がないから(=定性的考察)が易しくなるか」というそうでもない面があります。定量計算をすればビシッと出るところを、それ無しでイメージだけで考える方が難しいということもあります。その背後の定量計算が見える人にとっては「易しく」、そうでない人には、返って「難問」に見えるものです。
ですから、きちんと物理の実力をつけ、二次試験に向かって実力を養っていたGHS生にとっては、今回の共通テストの問題も「物理的思考全体の中のさわりの部分」として、さしたる難なく答えていけるものであり、実際に現在そのような報告が続々と届いているところです。(文責 田川・天野)
もう下駄を履かせない、ただ薄めるだけ
化学と物理に共通する流れは、教科書レベルの易問、つまり、あまりできない人向けに、平均点を確保するための「センター試験的下駄を履かせ問題」を減らしてきているということです。駿台・ベネッセから提供されている、得点分布グラフをみてみましょう。
https://dn-sundai.benesse.ne.jp/dn/center/doukou/dl/2021-dn-gaikyo-05.pdf
なぜか、物理だけ19,20年の刻みが荒くて凸凹していますが、とりあえず70点付近からの上位層がゴソッとなくなってその分、60点以下の層が増えています。ザクっと補助線を引いてみましょう。
二次試験の記述ハイレベル問題になると今ひとつの実力だが、センター試験的問題形式に助けられて「正解」することができて高得点となる「棚ぼた的高得点者」がいなくなったということです。しっかりと物理的実力を鍛え抜かれた者だけが、85-90点という高得点を確実にとることができる問題となってきているわけです。履かせてもらえる下駄も、シークレットシューズもなくなって、等身大の実力が現れてしまいます。
二次試験の「難問」の系統をしっかりと学んでいると、共通テストでのハイグレード問題は、こういう「難問」を答えやすくしたり、一部を切り取ったりしたものにすぎない、と見抜くことができます。だから、実力をつけた者にとっては「隔靴掻痒」の感を持ちながらも、「あの二次試験問題に比べりゃ楽だよな」なんて思いつつ解けるわけです。
すると、最上位層と、それ以下の差が大きく開くこととなります。
だから、結論は、化学と同じ。「共通テストの独自対策などない」「大は小を兼ねる」「二次は一次を兼ねる」
これは、昔々、東大が独自に一次試験をやって、そこで人数を絞って、記述式の二次試験をやっていたのと同じです。この点は以前のこのブログでも説いておいた通りで、巡り巡って、迷走を重ねて、結局、原点に戻ってきたにすぎません。
ただ、一次試験は、共通テストとしてやり、二次試験は各大学の裁量となる点が違うだけです。
A,B,C問題の様相
難関・医学部志望者にとっては、ここを取らないと目標の9割に到達できない、それがA問題およびBの一部です。私がやってみた手応えを元に、以下のように分類してみました。分類については化学と同様ですので、前回を参照のこと。
A問題: 17点 B問題: 51点 C問題: 32点
人によって難易の印象は幅があると思いますが、これは<体系物理>と<アドバンス>からみた基準です。Bの標準レベルも、B1>B2に二分割してよいかもしれません。すると、C+B2で32+25=57点 つまり平均点位になりますから、まあ妥当な分類ではないでしょうか。ここまでは、どんな学び方でもできるレベルです。
学び方はともあれ、もう少し頑張った人は、B1に食いついて半分も取れれば70点になります。 だからこそ、80-90点取りたければ、学び方を考えねばならないのです。
AとB1の「難しさ」は・・・
分かれ目となるA,B1問題は、どこが「難しい」のでしょうか?上で述べたように、「難問」ではありません。アドバンスレベルで鍛えていれば、「あれを共通テスト的に薄めたやつだな」とわかるのですから。だから、そうでない人にとっては「難しい」のです。
NHK大河ドラマに喩えてみましょう。毎週・毎回、視聴してストーリーを追って観ている(時には復習として再放送も活用して)人がいます。そういう人は、それなりに日本史の知識もあるはずです。それはちょうど<体系物理>を学んでから、<アドバンス演習>をこなして来た人に相当します。
そこから、「総集編」が放送されて、この総集編についてのクイズに答えるとします。本編を観ているからこそ、総集編を観ても人物関係や展開が分かるわけです。しかし、本編を観ていない(あるいは飛び飛びしか観ていない)人にとってはどうでしょう。総集編だけ見てもわからないことがあり、でも、話は次々に展開するので追っていくの大変です。実際、観てても面白くないものです。毎回の積み重ねがあるからこそ、要約されてもその隙間が埋められるから楽しめるのです。
具体的に4つほど
■第3問A ダイヤモンドの全反射の問題です。良い素材であり、物理問題として面白いです。でも、これを出すなら、もっと設問を分岐して、具体的な臨界角値を求めさせたり、グフラの読み取りを誘導したり・・・とそれが二次試験のふつうの形です。だから、タイヤモンドの形(角度や屈折率データ)もキチッと提示して計算をさせるような作りであるべきです。
ところがそういう具体的・定量的な思考がスキップされていて、ただただ定性的に結論を求めています。同レベルの問題をこなしていて、その流れが埋められる人には、この「総集編」を理解することはできます。が、そのレベルにない人にとっては、ストーリーが見えない、どう考え進んでいけばいいかかわからない。だから「難しい」のです。
「難問」を薄めるということは、薄める前を知っている人には易しく、そうでない人には「難しい」という矛盾が両立するわけです。
■第3問B <竜頭蛇尾>的問題です。素材は「原子物理」であり、蛍光灯の仕組みですから、このテーマ自体がそもそも「難」です。コロナ休校のために、急ぎありの形ばかりの、急ぎ足授業で、物理を「強制修了」させられた現役生にとっては、触れた程度で、十分に手が届いていないテーマでしょう。 これなども、しっかりと物理法則を適用してエネルギー保存と運動量保存で定量的に解くのが二次試験での普通のあり方でしょう。もしかすると原題ではそうだったかもしませんが、しかし、それがコロナ休校への配慮なのでしょうか、定性的な選択問題、つまり「骨抜き」問題になっています。このテーマで、この展開と結末はないだろう・・・事前のふれこみの割には、段々と視聴率が下がるドラマのようです。
■最後は問題1の問5です。これは、熱力学の「断熱変化」ですから、ポアソンの式を用いて計算すべきバリバリの<アドバンス>テーマです。<体系物理>テキストでは、ここを射程に入れて、断熱変化についてはその導出まで微分方程式を用いて書いてあります。そんなテーマを、問題1の小問にしています。だから、計算をさせずに、グラフを用いて定性的な考察で答えさせています。だから、具体的な量的比較ができず、かつ、初期値もはっきりしないので、ボアソンを十分に知らない(多くの高校生)人には酷です。(答えは②ですが、①を選んでも部分的がある、と言うのは、やはり疑問が残る作りです。)これは、もっとボリュームを与えて、知識も与えて、しっかり計算させて、結論を導くのがあるべき姿です。喩えていうと、「ドラマの予告編だけ見せて、ドラマの結末を予想させる」ような問題です。
これで「大は小を兼ねる」=「二次は一次を兼ねる」という意味が伝わったでしょうか。だから、一次試験レベルの問題をやるときにも「難しく」解いておくことが必要です。問題の作りに助けられて答えが出せるというのではなく、二次試験がどう薄まったのかを分かって解けることです。
ちなみに、この点から言うと、第2問がもっとも良い出来です。抵抗とコンデンサーのハイブリッド回路で、かつ、初期値と定常値を問うていますから、切り口はB1レベルです。しかし、そのハードルは、回路のイメージ図を選択させる誘導で、クリアできるようにしてあり、しっかりと計算させて数値を答える形にしてあります。
このような<物理的なイメージ> + <定量計算>という物理的思考力を問う問題作りへと反省・シフトして欲しいものです。
<了>