GHS数学主任の依田先生との対談の後編です。
高得点を取るという観点から
天野(A):ここまで、全体的な難易度の動向、出題コンセプトの変化について見てきましたが、次に得点分布についてもっと具体的に考えてみたいと思います。
というのも、どこの予備校の分析を見ても、平均点がどうのこうの、科目間格差があれこれ・・・そういう大づかみな話ばかりです。しかし、GHS生が目指す難関・医学部の受験生にとっては、「平均点」なんてどうでもいいことことです。それは、問題を作る側、入試センターの行政的視点であって、受験生にとっては関係ないことです。
この分析シリーズ、最初の[18]に述べたように、「85%以上の得点をとって、上位層の総定員に入ること」という1点にフォーカスすべきです。例によって駿台・ベネッセが提供している得点分布データを見てみましょう。
依田(Y):昨年度(’20)はピークの位置が明らかに低いし、85点以上の高得点者も少なかった。’19と’21は平均点は2点くらいしか下がってないが、上位層は減っているね。昨年は上位層も苦戦したことがわかる。
A: 今年の数1は、’19と’20の間をとった感じですね。数学がデキる層にとって見れば、文章が長かろうが、見かけが日常であろが、数1はやはり数1Aなんで、全く未知の問題なんてないと思って解いてしまうでしょう。
Y:第3問から第5問は選択問題で2問を選択ですが、第5問は図形の性質で、円の位置関係が難しく,選択問題の中では一番難度が高かったと思われます。
第3問は確率,条件付き確率で頻出の内容です.最後の箱を3個から4個に増やしたときの計算は3個の場合のヒントを利用して,各箱での確率を計算すればいいことに気付かないと計算量が多くなってはまってしまいます。
第4問は整数の性質です.「振り返り」で逆回りもあることに気付けば最後まで難なく解けるでしょう。5個の点の最小回数を考えるのも同じことですが,+3とー2の組合せの個数を考えるのがポイントでこれが分からないと大変な計算になります。
A: ショートカット・ポイントに気付くかどうかで得点差がでる。いかにも数学らしい作りですね。ポイントを見逃して、自分で問題を難しくしてしまい遠回りしたり、道に迷ったり・・・。そこを上手く切り抜けるための修練が数学の勉強というものでしょう。公式や計算だけではなく、出題者が散りばめている<隠しヒント>を嗅ぎ分ける嗅覚の養成です。では、数2Bです。
Y: 平均点が20点も上がっていますが、数学2Bとしては以下に解きやすかったかがわかります。満点とった人も相当いることでしょう。
A: 僕らの時代のセンター試験ってこんな感じでした。満点取るのは当たり前、というか、9割以上取れないと恥ずかしいというか、文系・理系共通の二次試験の範囲ですから、それを薄めたような問題はできて当然でしょう、と。二年ほど高得点が取りにくい状況が続きましたが、その反省と反動ですかね。
ただ、理科と違って、皆同じ科目を選択するわけですから、科目間格差、有利不利とか、難易度がどうこうは大した問題ではありません。上位層に入るための境界線が動くというだけですし。
Y: さらにいうと、どんな難しいといっても、やはり、所詮、一次試験ですから、二次試験レベルの実力を鍛えている人からすると、「誤差範囲」でしかないでしょう。必要なのは、こんな感想が出せるくらいに、日頃から二次試験レベルの手強い、厳しい問題に当たって、数学的に登り詰めることです。
第1問〔1〕は三角関数の合成に関する問題ですが,cosで合成することを知らないと(ⅱ)でアウトです。sinで合成してπ/2ずらすこともできますが,勉強してないと対応できません。
〔2〕は双曲線関数の応用で,三角関数と同様にsinhx2-coshx2=1などが成り立ちますが,指数法則から計算ができるかがポイントです。
第2問は微・積分の問題で,面積の計算には面積公式で簡単に対処できます.面積公式で計算するか,積分するかで処理量が大きく変わってきます。グラフの選択はグラフの性質が理解できていれば容易でしょう。y座標の差についても同様のことがいえます。
第4問は数列の問題です.等差数列,等比数列からなる漸化式を条件として,一般項を求める内容で基本事項がマスターできていれば十分に対応できる問題ですが,後半の計算が速く処理できるかがポイントです.
第5問は空間ベクトルの問題です.正12面体上のベクトルの計算をするもので,正5角形の黄金比が内分点のベクトルに関係してきます。この図形の性質が理解できれば難しくはないでしょうが,後半の内積の計算には差がつきそうです.最後の図形の考察は図形が読めれば,図を見るだけで解答できます。
A: もう一回、同じことを言います。問題の見切り、 ショートカット・ポイントに気付くかどうかで得点差がでる。いかにも数学らしい作りですね。ポイントを見逃して、自分で問題を難しくしてしまい遠回りしたり、道に迷ったり・・・。そこを上手く切り抜けるための修練が数学の勉強というものでしょう。公式や計算だけではなく、出題者が散りばめている<隠しヒント>を嗅ぎ分ける嗅覚の養成が必要です。それが数学の問題を解き切る、ということなんですよね。
会話形式について
次の質問ですが、他の科目にもみられますが、会話形式が取り入れられています。たとえば、数学1Aの第1問〔1〕の(3)に会話があります。でも、これなんかは「有理数になる条件を求めよ」という設問にすればいいだけじゃないですか?
Y: うん、数学的にはそれでよくて会話にする意味はないね〜( バッサリ(^ ^)d )
A: 第3問の「条件付き確率」にも対話が入っています。こちらの方は、解き方、考え方の誘導するための設問を会話にしたものですから、方向性・ヒントの与え方としてはこんな会話形式の方が作りやすい面があると感じました。
Y:そこが伝われば、会話形式にする必要はないんだけど、まあ、これもありかなと思います。数学的には、これがあることで思考力とか何とかにプラスするものがあるということはないです。(キッパリ(-.-;)y)
解答時間について
A:変更点の一つとして、試験時間が60分から70分になりましたが、その辺りはいかかですか?
Y:昨年まで永らくセンター試験として60分だったことから大きく変わった点かもしれません、しかし,これによってじっくり考えることができるようになった訳ではなく,問題量もそれなりに増加していてタイムトライアルである面は何も変わっていません。
A: 問題文の文字量が増えて、読む時間が増えた分の配慮というところでしょう。数学的な処理・計算等については変わりないということですね。
では、最後に、何か追加すべきコメントはありますか?
Y:「日常性からの出題」というのは,高校生の学習意欲の低下に対応する処置として,如何に数学が社会に役立っているかを意識させようという意図なのでしょう。しかし、そもそも現代の文明が自然科学の発展に根差していることを考えればその有用性は明らかであって,共通テストでアピールするまでもないでしょう。だから、これは学習意欲をもっている受験生,高度な学問を学ぼうという受験生にとっては、当然のこと。その意味で、その前提で学んでいるGHS生にとっては無用なこと、必要がないことだと言えるでしょう。
A:センター試験や共通テストごときで躓いたり、失点しているようでは、難関・医学部なんていっている場合ではありません。その点は昔も今も変わりません。その時にある二次試験の突破を射程に入れての、それを「薄めたもの」としての共通テスト・・・ただし、これは理数科目に限ることですが・・・・を、通過点として攻略するという姿勢であるべきです。
そして、それとは別立てて、国語、特に古文・漢文や、社会科目が足を引っ張らないように十分な時間をかける、これも今も昔も同じことが言えますね。
本日はどうもありがとうございました。
Y:こちらこそ、色々な話ができて楽しかったです。ありがとうございました。
<了>