理系であれば、物理・化学か、生物・化学かの選択となるのが99.99%。(物理・生物選択は超レアながらいます。同級生で一人、GHS生で一人・・・)
そもそも、昨今の高校では文理選択が二年生になる前にあって、この時に早くも物理か生物の選択を迫られますから、化学とどちらかになるのです。一貫校や私立ではもっと早いこともあるようです。
昔話ですが、私の出た山口県の県立進学校(まあ長野高校並み…)では、三年生になる時に文系・理系に分かれたので、一年生は地学I・生物I、二年生は化学I、物理Iをやって、三年生で理系は、物理IIなのか、生物IIを決めるという、今から見ればゆったりした時代。文系は、それで理科が一応終了し、共通一次試験に向けて一年間、Iの範囲を復習したのでした。
時は流れて、制度も、教科内の区切りもコロコロと変わり、今や、高校一年生で、理科は〇〇基礎、これで文系は終わり。理系は二年生から物理ないし生物の選択を迫られることになっています。そこから二年かけてやる全範囲が2016年からのセンター試験、そして共通テストの出題範囲となっています。
物理と生物、どちらがいいですか
こういう質問をしてくる人は、要するに「どちらを取ったら有利か」「どちらがよりラクに点が取れるか」という意味を含んでいるものです。
またまた昔話になりますが、私は化学・物理選択です。この件は、『体系物理』テキストのあとがきにも書いたことなのですが、私は迷わず「物理」を選択しました。三年生になる前、当時悩みに悩んで文系志望でしたから、3:1くらいで文系クラスで多くが生物を取る中、少数派でした。その理由は単純。「物理学」という響きに憧れていたからです。物理学こそ、科学の盟主である、という歴史を知っていたからです。要するに、もっと物理を学びたい、という理由です。だからどっちが良いか、なんて他人に相談していません。
・・・それが結局、理系転化、医学部再受験・・・そしてGHSでの体系物理の構築、そして今へと繋がっているのでしょう。
だから、要するに、私の体験談なんて特異なことばかりで、相談者の役には立ちません。こんな青臭い理由で、理科の選択科目を選ぶ、若者は今も昔も多数派であるはずはないからです。
なので、とりあえず「どちらが有利ですか」という質問には、「今年は生物が有利でした」と結果論でしか答えられません。全国平均で、生物73点、物理58点、得点調整しても10点のアドバンテージがあります。さらに、浪人生だけのデータというのがありますが、なんと生物83点、物理は69点にとどまります。
だからと言って、もはや現高1生は、昨年の内に理科の選択が決まっていることでしょう。今更物理から生物に乗り換えることは不可です。もうクラス編成も決まっているでしょうから。
今年の優勝は紅組!!
「えっ、嵐の解散の餞(はなむけ)で白組優勝じゃないの?!」と思った人もいたかもしれませんが、どうも分からんもんです。まあ、どちらが勝とうとどうでもいいことなんですが・・・。しかし、考えるネタにはなります。
物理と生物も、こんな<紅白状態>です。次のグラフを見てください。
例によって、平均点なんでどうでもいいことです。有利・不利を語るなら、85点以上取れるか、叶うなら100点満点取れるか、この点だけが大事です。
物理は、昨年の85点以上の上位層がごそっと減って、逆に生物では倍増どころではないくらい増えたことが明らかです。ということは、前年は、物理が有利だったのですし、その前の年も物理有利でした。
だから、昨年と比べて難化だの易化だと騒ぐのは、<紅白歌合戦の勝敗>を予想したり、喜んだりしているのと変わらない、つまり意味ないということです。来年は来年の風が吹く。選択行動を決める根拠にはなり得ない、ということです。
今年の物理・生物の平均点を比較して「あぁ、生物を選択していてよかった」と安堵した高1,2生、それは< スイート>なのですよ。
生物は地理・政経、物理は日本史・世界史いや、倫理
冒頭の昔話に書いたように、センター試験の生物Iは文系がこぞって選択することもあり、点が取りやすい科目でした。だから、文系の物理選択者は、その不利を承知で物理Iをとっていたわけです。だからそんな物理選択者からしてみると生物選択者を「根性なし」呼ばわりしたり(もちろんジョークで)していました。物理選択者が生物選択者より高い平均点となるのは不可能でしたが、ただ、物理はきっちり勉強すると覚えることが少ないだけに、平均点とは関係なく「満点が取れる」という夢とスリルがあったのです。
そしてまた時が流れ・・・2016年から理科は文系と理系に分割されました。するとどうでしょう。
年度 | B | P | P/B | 点 |
2017 | 77,389 | 155,739 | 2.0 | 63.62 |
2018 | 74,676 | 156,719 | 2.1 | 68.97 |
2019 | 71,567 | 157,196 | 2.2 | 61.36 |
2020 | 67,614 | 156,568 | 2.3 | 62.89 |
2021 | 64,623 | 153,140 | 2.4 | 57.56 |
理系の生物(Biology)選択者がジリ貧なのがわかるでしょう。物理(Physics)選択者数は2倍強、その差は拡大しつつあります。最右欄はセンター試験生物の平均点です。今年と比較して明らかに低い、というだけでなく、だんだんと難しくなってきていたこと、そして高得点が取りにくくなってきていたのです。
だから、共通テストの生物科目の異変は、この状況に対する<緩和措置>というか<大盤振舞い>なのだとも推測されています。生物で高得点が続出したことは、文科省サイドの「生物離れを食い止めたい」そんな願いが反映されているのではないかと勘ぐられても仕方ありません。
実は、生物は難しくしようとすればいくらでもできるのです。生物の新たな知見は毎年毎年、いや日々積み重なっています。生物はまだ発展途上の自然科学分野ですから、医学の発展と並んで、知識はどんどん膨れ上がっています。
我々の時代、免疫機構なんてわかってなかったから当然問題にもならず。ところが利根川博士が1987年にノーベル賞を取ったくらいから免疫学が興隆し、入試にもL鎖・H鎖とかが出るようになりました。DNA・RNAにしても然り、私が当時医学部で「最先端」として教わったことが、入試に出ています。それと相まってウィルス学、古生物学等々、追いかけても追いかけても、追いつかないくらいの知識が増えているのです。生物には、常に、未知のデータ、未知の知識に出会う怖さとストレスがあります。
それは社会でいうと地理に似ています。地理は一度覚えても、毎年データが変わり順位などが入れ替わるし、国名も国境も変わるし、貿易のあり方も政治情勢等で変化しますから、毎年毎年更新しないといけない。それは政治・経済も同様です。
ところが物理の内容は、1900年代初頭で完結しています。物理法則や公式が変わることもありません。未知の法則はあり得ません。地球人が見たことない運動をする物体もありません。その分安心して学べます。ある範囲を学んだら、どんどん深めればいいだけです。これは、すでに確定した事実を学ぶ歴史に似ています。ただ、日本史・世界史は範囲が広すぎますので、むしろ倫理(要するに思想史)に相当するでしょうか。
残念ながら、物理学は、今後そう大きくは発展しないでしょう。否、仮に新たな発見があったとしても高度すぎて早々に入試に降りてくることはありません。
これに対して、生物学そして医学は、まだまだまともな法則の一つも定まっていませんから、どんどんと知識は拡がりを見せ、知見は集積していくのは間違いありません。だから、将来それを担い発展させる研究者の卵、生物学という学問の担い手が減っていくのは、科学的亡国の警鐘がなっていることに等しい・・・それが国家的視点からの深刻な教育問題なのでしょう。(小さくいうと、高校の生物の授業が成り立たず、生物の先生が困る・・・クラス編成が・・・)
共通テストの難易度をいじって生物離れを食い止める、というのはいかにも愚劣で怪しからん発想ですが、でも影響は少なくないですから、ブレーキの一助になるやもしれません。少なくとも、「生物はキリがなくて難しい」「生物選択ではそこそこ取れるが、物理のような高得点は取りにくい」という<悪評>を払拭するためには、少なくともここ数年の難化路線には歯止めがかかるでしょう。でも、今年ような拍子抜けするほどには易しくできないでしょう。
ただ、所詮、共通テスト=一次試験ですから、物理は上に述べた経緯は不変であり、いかに難化しようともしっかりやれば「満点が狙える」というドリームもまた健在です。物理ができるやつは、もっと難しい方が楽しく解けるとさえ言えます。これは、科学としての完成度の差異という本質的な問題ですから、問題の難易度で何とかなるようなことではないので、自ずと限界があります。
だから物理・生物の選択は
だから、「どちらが楽ですか、有利ですか」という問いは ‘futile’ なのです。問い自体が無意味であることを悟るべきです。そして、誰かの意見に従う心のあり方も、本当の高みを目指すならNGです。
どちらの道を進んでも楽な道はなく、それ相当に登り詰めるまでは辛く厳しい試練です。だから、自分が少しでも愉しいと思える方、好きだと思える方を選ぶ事です。好きだからこそ耐えていける、続けられるものですから。
だから、他人の意見など聞くべきではありません。自分の責任で決めるのです。人に決めてもらうと、辛い時に逃げ道になりかねません。苦しい時に人のせいにせず、自分の選んだ道だから歩き切る、それが大事です。
さてさて、今年はどちらが勝ちますか。さすがに白組かな・・・。いや・・・。