「今年は物理選択者ばかりだ」という話から、タイトルに掲げた本題に行く前に、「今も昔も受験物理は変わらないな・・・」という思いからついつい長い回想シーンに入ってしまい、先送りとなりました。今回こそ本題です。 チャートの数研 数研出版といえば、数学のチャート式です。昭和の時代からの老舗ブランドです。私が高校生の時は、参考書といえばチャート式ぐらいしかない、という勢いでした。今のように、迷うほど沢山の選択肢はなく、数学の赤、青、物理、化学、四冊は中身もわからず、評判だけで買いました。・・・いやいや、ここで振り返るとまた回想シーンに入るので、中身はすっ飛ばして・・・とにかく、どれも後々の、そして今の自分には全く繋がっていません。 学参だけでなく、数研出版は、学校で用いる数学の「傍用問題集」をいくつものグレードで出している、副教材配給会社でもあります。数学の授業で使っていました。簡単な答えしか載ってなくて、ヒィヒィ言いながら予習して行って、当てられたら黒板に書いて、それを教師が解説する・・・それだけの授業でした。今でもそんなものでしょう。できないのは参考書を片っ端から調べたり、'出木杉くん'に聞いたり。 昔と大きく違うことといえば、そこに物理傍用問題集もラインナップされるようになったことです。 実際、長野高校では「リードα物理」という問題集が採用されています。こんなの昔はありませんでした。
それを二年生で副教材として買わされて、三年生になると「物理重要問題集」を購入させられます。
つまり、「リードα物理」は「物理重要問題集」の一段下の問題集です。
どちらも市販物として手に入るのですが、装丁がシンプルになっていてやや安く設定されています。 いつの間にか、「リードα物理」は、第一学習社の「セミナー物理」の牙城に食い込み、覇を競う存在になっているようです。後者は、長野日大高校や、屋代高校などで採用されています(いました?)。
「物理重要問題集」は、数研物理のトップの位置付けですから、現役生では手が出せない(出木杉くんを除いて)ものです。 「物理重要問題集」のフットワーク編集 この「物理重要問題集」は、とても良い問題集です。「化学重要問題集」もありますが、物理の方がハイレベルです。
編集方針は、入試物理全体の出題に全て触れられるようにテーマやパターンを130ほどに細分化し、そのテーマに合った問題を20年以上の射程で歴代の入試問題からセレクトして並べています。もちろん、こんなことはどんな問題集でもやることなのですが、それを毎年更新するというフットワークが特徴です。2割程度の問題が差し替えられるようですが、替えの効かない名作問題、つまり「このテーマはこの問題の作りが最高、完成形態!!」というのは10数年経っても生き残っています。つまり、次第に名作問題が集まってくるわけです。 一方で、いくらでも差し替えのきく、類題もあります。いわゆる頻出問題ですが、すると新しい年度の問題が入ることになり、問題集としての鮮度をアピールすることができます。例えば、2010年版と2021年版を比べてみると、この問題まだ代わりがいないんだな・・・と感慨深いものです。だから毎年売れる、というわけです。 受験生にはそんな感慨に浸る余地などないでしょうが、だから、新年度版だから良いということはなく、極端な話、2010年版を使っても入試物理の本道の学びには、ほとんど問題はないのです。指導要領改訂で、枝葉の問題の出入りがあるだけです。 だからアマゾンで年度落ち在庫崩れをほぼ送料だけで購入してやれは安上がりで良いのですが、やはり、「何だか新年度版でないとダメな気がする」という受験生心理を巧みに攻めてくる憎い商品コンセプトです。 物理法則はすでに前世紀の初めまでに全て発見されていて、物理現象もまた、自然の摂理ですから、数学みたいにありもしないシチュエーションを想定することはできません。自然科学は、現実とのリンクが数学より断然強いので、数少ない物理法則の持つ埒内で、作れる問題の範囲は自ずと決まってくるからです。 要するに、どんなに「見たことない問題」に見えても、物理法則の埒内で、その組み合わせとして解けるようにできていますから、高々10年の出題年の差なんて全く関係なく、新しい年度の問題を追いかける意味は全くないからです。 それよりも、「名作」と言える問題をしっかりと理解し(物理法則の本質を教えてくれる)、解法を次に繋がる形で覚えることだけが必要なので、この「物理重要問題集」はその善き見本市となっているのです。
こういうことが出来るのも、物理という科目が、ニュートン力学以降、偉大なる先人達によって物理学が体系性を持って構築されてきたからです。(「化学重要問題集」が劣って見えるのはそのためです) 「物理重要問題集」をやり切るのは至難 実はこの「物理重要問題集」は、かなり難しい問題集です。物理ができるようになった人は、必ず私が上で述べたような点を理解するようになりますから、「これをやり切れば東大・京大も合格!!」とか言うものです。 それは本当です。だって、東大や京大等のハイレベルかつ名作問題もしっかりと含まれているからです。だから、もし余力があれば、先に述べたように、10年落ちの古本(といっても古在庫なので中身はキレイ)を入手して、そのテリトリーの問題(いわば東大・京大枠)で差し代わったものを見つけてやってみるのは、確かにベストな入試対策です。 毎年出題される、沢山の入試問題を選別し、その中から「宝」を見つけていくという作業は大変ですから、数研セレクトで生き残った名作問題を優先してやれるのは効率が良いことはいうまでもありません。 ただし、これを「やり切れば」の話です。でもそのやり切ること自体が、受験生には困難です。独習では至難です。問題は高々150しかありませんが、どれもが物理法則と公式をしっかりと理解していないと、つまみ食い的にはできますが、やり切るのは至難の業です。 高校三年になって学校で買わされたものの、自学自習に任されていますから、それをやり切れる受験生はほんの一握り、大部分の生徒は、やってはみるものの、150題のツワモノの前に2-3割程度のつまみ食いをして諦めることなります。「高々150問なのに、何でこんなにゴールが見えないんだ・・・」と。でも、150問、全部でワンセットですから、やり切らないと意味がないのです。そのやり切れなかった部分にこそ、合否の分かれ目があるのですから。 かつての私もそうでした。良いということはわかっているし、やり切れる実力があれば東大・京大も合格できることも明白ですが、それが実現が困難、困難の極みで、何度も挑戦するけどある一定以上は進まず、やり切ることができなったのです。
「物理重要問題集」の解答編 「物理重要問題集」は全部で300ページほど。しかも、解答編は問題編と同じ厚さで150ページもあります。2000年版くらいまでは解答編はもっともっと薄っぺらだったのですが、手元にある2006年版はすでにそうなってきています。
高校教師からすると、「解説が詳しいから、自学自習可能だろう」、「しっかり解説があるから授業では扱わなくて良いだろう」ということで高校ではフォローはありません。 でも、指摘したいのは、この解答・解説のクオリティーです。 いくら詳しくても、理解できない解答、真似のできない解答、遠回りした解答では、読んでもわからないし、次に繋がらないし、進まないものです。問題のレベルが上がるほど、その傾向が顕著になります。 今ここでは細かいことを述べることはしませんが、問題セレクトの秀逸さに対して、(解答編の答えが合っているのは当然ですが)、問題の解き方の解説や解法のレベルについては??と思う点が山積なのです。 ・・・そこで今年GHS長野校では、それに見合う学力の生徒が揃っているので、「体系物理」テキストは独習してもらうことにして(それくらいは学校で真面目にやってきたが、壁に当たっているということです)、「物理重要問題集」の良問群に対して、体系物理的で、筋の通った、かつ、微積分を初めとする数学を駆使した(つまり大学の物理学に通じる)、一刀両断的な解き方を指導し、各自「マイ解答解説集」を作り上げることを指導しています。これは、理系受験生にとっては垂涎モノでしょう。 「問題セレクトは最高レベルなのに、なぜ解答解説編とそんなギャップがあるのか?」
どんなフシギ・不可解にも合理的理由があるものです。 それは数研出版だけの問題ではなく、物理という科目の制度的欠陥にその根元があります。 それについては次回の稿で。