数学・国語の「難化」の影で
ニュース記事というものは、インパクトを求めるので目立つところばかりが取り上げられ、結果的に横並びの記事ばかりになりがちです。記事は、字数やニュースソースが限られていたりするので、仕方ありません。でもここでは、字数やページを気にする事なく、GHSの日々の指導レベルから、存分に展開したいと思います。
こういう時、「例年並み」とか、「昨年と同等」という科目は、報道としてはあまり価値がないので目立たないものです。ニュースというものは、50万人近くのほぼ全員が受ける英国、7割が受ける数がメインとならざるを得ません。選択科目の理科や社会については、なんかの「異常事態」がないと、まずは報道されません。最も選択者が多い化学でも、全受験生の1/3ほどですから。
そこで、まずは私が主に担当している理科科目の化学・物理から述べていきたいと思います。
1. 化学
- ・ほとんどの理系が選択する科目です。GHSでの<体系化学アドバンス>の指導レベルから言うと、特に易しくも難しくもなっておらず、昨年並み、難易度は同程度に見えるのですが、世間一般では、平均点は「難化した」とされる昨年より10点下がり、50点を少し下回るようです。センター試験時代の、平均点60点以上というのは今は昔。それゆえ、平均的受験者層からすると「さらに難化した」と言えるのでしょうが、この感覚のズレはどこから来るのでしょうか。これが今回の焦点です。
- 設問としては30問あります。1問あたり3-4点が配点されます。「9割以上とる」を目標にした場合は、失点は3問まで、8割目標なら5-6問に留めなければいけません。
- 「平均点云々」では測れない、解答にあたっての各設問の「難易度の質」が変性していることに気づく必要があります。
この点を明確にするため、問題解析にあたって、まずは例によって、問題をグレード分けしておきしょう。
- <C>: ・教科書をまじめに学び、学校の傍用問題集の基本問題をきちんとやれば答えられる。・使う知識は単発、つまりハードルは1つ。要するに受験生なら誰もができる、できるべきだという想定の問題。・平均点を調節するための「下駄履かせ」問題として、「ゆとりの時代」までは4割もの配点となることもあった。
- <B>: ・大学入試としての標準問題。学校の傍用問題集なら「発展問題」レベル。二次試験入試レベルの問題演習していれば、半分以上は解けるような問題。ポイントは2つあり、両者の基礎がしっかりしていることが必要。複数のハードルをクリアしないと解けない問題。これらは実力により適度に差がつく良問となります。配点が最も大きくなるグレードです。このレベルの計算問題は、『体系化学』テキストを核にして修練すればすべて同じように手早く解くことができます。時間の確保と得点率7割越えにはここを各自にミスなく取ることが必須です。
- <A>: ・私立医学部や国立大二次試験に出るような、教科書を超えた内容で、差をつけるためのテーマ・素材(といっても難関入試には必出である)を共通テスト用に薄めて、答えやすくした問題。・通常の高校の授業レベルでは全く太刀打ちできない。こういうテーマは、既存の参考書でも十分のページが割かれていない。
- →GHSでは『体系化学アドバンス』(以下、化学AD)というオリジナルテキストで、開講時から分厚く指導しています。
→さらに、ここを化学ADの授業の観点からA1とA2に分けます。
- A1 : 難関私立医学部、国立二次試験に出てもおかしくないような、いわゆる「難問」。みたことのない反応、初見の知識をその場で読み解いて答える。そのレベルの指導を受けていないと解けない問題。学校の授業だけでは、全く歯が立たない。→このレベルは昨年と同様、さすがに出題はありません。
- A2 : A1のレベルの問題を共通テスト的に「薄めた」もの。 日頃からA1レベルの問題演習をしていてはじめて、ふつうに解ける。これは、センター過去問演習や高校の通常授業では手が届かない。つまり、ある程度知らないと、問題の意味さえわからないこともあり、読解に時間がかかる。逆に、このように上から見ると「薄めてある」とわかるので、そのように見下ろすことができると楽にできる。上位層が8-9割を得点する理由はここにあると言える。
以上の観点から仕分けしたのが、以下です。
結果は、A:33点, B:43点, C24点 計100点です。この配点から考えるべきことは以下です。
- グレードCが1/4にあたる24点分しかありません。 つまり、教科書レベル+センター試験過去問程度の、普通の高校の授業程度の勉強では、Bが半分できたとしても50点にも届かないということです。 かつて、ゆとりの時代は、このCが40点近くあり、Bの半分と合わせれば、平均的受験生でも60点前後は取れるようになっており、少し易しい 年には、平均点が70点にもなる、ということもあったくらいです。この易問群が多かった頃は、上位層なら、試験時間60分に対して40分もあれば解けてしまい、ゆっくりと見直して満点を狙ったものです。この部分の縮小傾向が2016年(ゆとり時代の終焉)から始まり、ここに至ります。
- グレードAが33点あります。これは昨年から増加しています。センター試験の頃に比べて明らかに増えています。Cが減った分、こちらが増えていると言えるでしょう。つまり、上で述べたように、二次試験の「難問」を演習するような本格的な勉強をしていないとまず正解できないので、Bが全部できたとしても67点満点となってしまいます。つまり70点を超えること自体に高いハードルが設定されていることがわかります。「共通テスト対策」と称して共通テスト的問題の、そのレベルの問題練習やセンター試験過去問の解き直しなどは、ここに対しては無意味ということです。
- 8〜9割の得点を取るための共通テスト対策とは、グレードAをどうするか、ということに尽きるのです。グレードAの問題の「難問からの薄まり具合」がわかるような「大は小を兼ねる」学びをやっておくことが必須です。
- 過去3年の分析ょ並べてみましょう(ブログ[19]参照)。
- 2020 32個の設問 A 32点 : B 13点 : C 55点
- 2021 29個の設問 A 18点 : B 44点 : C 38点
- 2022 30個の設問 A 33点 : B 43点 : C 24点
こうやって比較すると、Cの比率が年々縮小して、A+Bが拡大したことがわかります。とにかく、イージーなCレベルの設問が減ったので、平均的な学力の受験生は、その分得点が大きく下がるわけです。今後もこの程度であろうと予想します。したがって、Cレベルの過去問ばかりを見て、これならできる・・・なんてナメていると酷い目に遭うゾ、という警告を発しておきたいと思います。実際、そんな問題の割合はすでに1/4しかないのですから。
「難問」を薄めるとは?
グレードA2の問題を具体的に挙げて、「難問」を薄めたように見えるとはどういうものか、簡単にお話ししましょう。
問題例1 第5問 問2
大問は5つあり、この第5問は有機化学の問題枠ですが、この設問は、素材は有機化学ながら、やることは、純粋な熱化学の問題になっています。有機化学ではない!! とすぐに見切って、熱化学に頭を切り替える必要があります。つまり、この設問に限っては有機化学の知識は必要はなく、かつ、問2を構成する前後の設問a,cと連動しない独立問題となってます。
前の設問のaは、「アルケンのオゾン酸化」という教科書には出てこない、かつ、難関入試の定番(「有機アドバンス」の授業では常連です)ですので、aで「ダメだ、こんなの知らない!!」と思った人にとっては、bまで解けない気がしてきます。本当は、aと関係なく解けるのですが、ふつうの受験生は、そこまでは頭が回らないものです。ここの見切りが第一のハードルです。
この設問bは、<化学AD>の熱化学の問題として見ると以下のようになります。まず、与えられた熱化学方程式は合わせて6個です。教科書レベルの解法では、式を足したり引いたりして目的の式を作るのですが、このような解法では4つくらいが限界で、6つもある熱化学方程式を書き出し、足し引きの操作をして、目的の式を作るのにあれこれ試行錯誤をやっていると、できたにしても時間を浪費します。これまでのセンター試験の過去問は、式が3-4個程度でしたからそれでも何とかできたのですが明らかに「難化」しました。こういう事態であっても通用する解法を習得しているかが、第二のハードルです。
実際、<化学AD>の授業では、熱化学の「難問」として10-11個もの熱化学方程式が与えられる問題を集めて、旧来の解法に頼ら図、スバリと解ける統一的方法を伝授していますから、式の6個くらいならむしろ余裕であり、スイスイと解けます。具体的には、『体系化学』テキストを参照していただくしかないですが、解法の要点を述べると、「物質エネルギーの基準(0KJ)を単体として、(2)式をエネルギー値で表せば、一行で鮮やかに解けて、終わり!! です。
これが「難問を薄めた形」ということです。
問題例2
一見易しそうに見える知識問題です。選択肢も4つしかないので、何とか消去法とカンで行けそうな気がしますが、確信を持って即答できるでしょうか? 易しい順に見てみましょう。
- ④は、中学理科レベルです。要するに凝固熱(融解熱)ですから、吸熱反応しかありません。
- ①は、炭化水素が燃焼してCO2とH2Oになる反応ですから、発熱に決まっています。まあ常識です。
- ②は、高校化学の教科書にある、「中和熱」のことです。これはH++OH–→H2Oという反応によるものなので、酸や塩基の種類によらず一定値であることは、標準的な計算問題を通して知っているべきことです。
- よって、正解は③です。まあ、ふつうは上の消去法で答えが出ればよいのでしょうが、<化学AD>の視点から下ろすと、これは「溶解熱」のことを言っており、溶解熱=結晶の解離エネルギー(吸熱)+水和熱(発熱)なので正負どちらもある、ということまでを学んでいれば「瞬殺」です。実際、化学ADの熱化学演習においては、それを具体的に計算する問題をいくつもやった経験があるわけです。「あの問題でやったことだな」と想起できて、確信を持って選択できます。要するに、選択肢の背後に、ここまで積み上げた経験がどれだけ見えるのか、ということが「正解への確信」なのです。
- ちなみに、これまでのセンター試験の問題づくりは、③のような「難し目」の選択肢はあってもそれは頭数で、正解ではなく、それ以外の基本的なものがわかれば、③は知らなくても正解できるという形式でした。ところが、本問は、易しい選択肢が頭数にすぎず、最も難しい選択肢を理解して、選択するという形式となっています。これだけでも難易度が上がっていることが明らかです。
問題例3 第1問 問5
- 言わずとしれた気体溶解の「ヘンリーの法則」です。「ヘンリーって?」とかいう人も少なくないでしょうが、そういう人はすでにに蚊帳の外です。昔から、ヘンリーの法則を用いる計算問題は「難問」とされていて、私の受験時代は、東大や東京医歯大や早慶が難問を競ったものです。それから、私立医学部や国公立大での出題もふつうになって、ついに、共通テストでもふつうに出るようになった=ふつうの入試レベルになった、ということを示しています。
- 「ヘンリーの法則」は、90年代までのセンター試験には出ていましたが、ゆとりの時代は、「難しい」ゆえに真っ先に目をつけられ、教科書そのものから駆逐され、10年経って「発展事項」として復活しました。2016年以降のゆとり世代の終焉以降は、センター試験でも復活し、今回の問題は、ヘンリーの法則としては標準的な計算問題です。ただ、ヘンリーの法則そのものが「難問」であるので、受験生にとっては「ヘンリー」というだけでA2レベルと言えます。
- これも『体系化学』テキストで説いてあることですが、教科書的には、ヘンリーの法則は「公式化」されていないため、計算式を作ること自体が難しいのです。したがって、高校の授業では軽く触れる程度で、なるべく避けて通るものです。もちろん、『体系化学』では、化学基礎公式❽としてmolにリンクするようになってますので、GHS生にとっては 「おいしい問題」であり、差をつけられるチャンス、超Welcome!!です。
さすがに長くなったのでサンプルはこの程度にしておきましょう。結論はシンプル。
共通テスト・化学の対策は、二次試験レベルの問題演習をしっかりとやること。つまり、「共通テスト対策をしないこと」という逆説になります。いいことじゃないですか。やるべきことが一本化するのですから。
・・・ブログでは、全ての問題についての具体的コメントは伝えきれません。それで数十ページのテキストになってしまいます。具体的な解き方と知識は、体系化学な授業を通して、その中に位置付けて説くことになります。ましてや、ニュース記事や字数制限のある大手予備校のコメントなどで具体的なリアルな情報を得ることはできないのだ、ということが伝わればよいかと思います。