理科科目の得点分布から見えてくること
化学に続いて、物理の問題解析に移りたいところですが、得点分布グラフが公開されましたので、理科各科目(地学除く)についての分布解析を先に済ませることにしましょう。
生物科目は、直接指導はしていないので問題解析は行いませんが、グラフは示唆に富んでいるので、最初に取り上げます、
点線—-が平均点、実線がピークです。この2つが離れているほどグラフがどちらかに歪んでいることを示します。
「生物を勉強してなくても、問題文を読めば答えが出る」と言われた驚くほど簡単だった昨年度2021の生物は、入試問題づくりとしては失敗です。こんな分布になるようでは、受験のプロからみるとまるで素人の作りです。初年度は足並みが揃わない、という「恒例のバグ」です。あまりに易しいので、昨年は「ジリ貧の生物選択者を増やしたい」という政策意図か?との仮説を出しておきましたが、どうやら違うようです。実際、おおよそ生物:物理=1:3で、生物の割合が減りつづけています。
ところがどっこい!! まさに掌を返したように、今年は大きく「難化」し、平均点が-15点と大きく低下しました。ただ、グラフの形を見てみると中々いい具合で、平均点を軸として対称的な分布になっており(左側が少しカットされているので補いましょう)、うまい具合に広く差がつく問題となり、高得点層が総合点分布と同様に著減しています。
公的な「共通テスト」だから、「難しいのはけしからん」だのなんだのと物議を醸すのですが、もし、3000人受験するうちの1割、300人を選抜したい、という入試であればこれで適切なわけです。
実際、私立医学部の一次試験は、そうなっています。70%くらいの得点でそれくらいの人数になれば理想です。問題を易しくすると、狭い範囲の得点に高得点者が集中して、本当の実力を見極めるのが困難になるものです。2021はまだまだ高得点層が厚く、分布はやや右シフトしていてイビツです。50点くらいが平均点で、60点取ればよし、70点で合格、80点なら優秀!! これはテストとしては良い出来です。
「ジリ貧の生物選択者を増やしたい」という政策意図か?の真偽
この三年分の3パターンの得点分布グラフから読み取れることは、
「出題側に平均点や分布をコントロールしようとする力量や意図はどちらもないのではないか」
ということです。
こんなに分布がブレる問題を大手予備校が模試でやると、担当者は降格・交替させられかねません。受験者から「あそこのの模試は必要以上に難しい」との悪評が広がると、受験者が減り予備校の利益を損ね、経営に影響するからです。いつもいい具合に分布するようにできるだけのと力と工夫を重ね、それ相当の人員を割くものです。それが経営感覚・危機意識というものです。
しかし、受験者が減る心配がない公的試験ですから、このブレを見ると、要するに、危機意識の薄い、お役所的仕事の匂いがしてきませんか?
実際、理科や社会の科目間格差は何十年前からの課題のはずですが、一向に解消できないし(得点調整でお茶を濁し根本的解決から逃げています)、今回みたいに制度が変わる節目に当たると決まって難易度が上下にブレるのも、何ら過去を学習していない、ということを示しています。
その意味で、センター試験は30年以上の経験と問題づくりのノウハウを蓄積し、データ的にはかなり安定していましたので、それを惜しむ声、昔に帰れという声があるのもやむなしです。
受験生の現実、教育の現場を知らない「試験委員」が「有識者」から選抜されて問題を作ることになります。完全秘密裏に選抜された大学関係者(余談ですが、実は、医師国家試験は試験委員の教授がバレバレで、その教授の専門や論文を踏まえて出題を予想することもあったりします)は大変なプレッシャーで問題を作るのでしょうから、その苦労は偲ばれますが、任期が単年か複数年か知りませんが、如何せん、本来の仕事ではないですし慣れていません。さらに、事前にモニターとしてその時間内に問題が解けるか等を、学生に試験問題を解かせることができないので、結局、蓋を開けてみての結果論となります。任期が終わればお役御免です。
「前年、易しすぎた」という反省があるとその反動で気合が入り、またはその逆です。
本来は全体を統括できる(つまり全科目の難易度がわかり調整できる)人材が必要なのですが、多分そうなっておらず、そういう人はおらず、やっていることは科目・教科縦割りなのでしょう。各科目のリーダーはいるはずですが、要するに、その人の教育者としての力量と現場把握力や調整能力が、問題づくりの良し悪しに反映されるのです。もちろん、こんなことはどの入試でも多かれ少なかれあることですが、公的試験では、責任の所在と危機意識が曖昧なのです。
「問題が起こったら調整すれば良い」、「新しい試みなのだから、多少のブレは仕方ない」等々言い訳して、誰も責任を取らないから繰り返されるブレと混乱。・・・もっとも予備校関係者なら、長年問題作成やっていることですから、いい感じで問題を作れるのでしょうが、そういう人材を試験委員に選抜するのは、それはそれで公平性の立場からは問題となるので採用されません。だから、こういうことが性懲りも無く繰り返されるわけです。
ちなみに、大学入試センターは試験後に、「高等学校教育関係者から成る外部評価分科会」や、全国的な教育団体(生物は、日本生物教育会)から意見を集め、「問題作成部会」の各問題作成分科会の分科会長・副分科会長から成る自己点検・分析・評価分 科会委員が,各科目の問題作成について自己点検するとともに,上記の意見・評価について検討 し見解を取りまとめたものを公開しています。
「こんな色々なご批判、ご意見がありました。失敗については再発防止に努め、この反省を生かして、より良い問題づくりにとり組んで参ります。」これを繰り返しています。
これが「責任を取らない」ということの顕れです。
まあ、さすがに問題作成までは不可であっても、事後の「ご意見・ご批判」は、忖度をせざるを得ない高校の先生に止まらずに、歯に絹着せぬ、忖度のカケラもない予備校講師達に求めるくらいの度量がないものか、と思います。《続く》