フラット&ハーフ
物理の平均点は、60.7点で、昨年度62.3点と同じ位、違いは誤差範囲でした。
得点分布グラフを見ても、ほぼ形は同じです。化学や生物のように、低得点層に山がシフトした形ではなく、60点ぐらいで三年間安定した作りであるように見えます。
配点の刻みが大きいのでギサギザしてしまうので分かりにくくなっていますが、物理選択者の特性もあって、高得点層が厚くなっています。滑らかにトレースしてみましょう(青線)。
分布として本来あるべき形は、・・・・・・線のように高得点になるほどに減っていくものです。こうすると高得点層がかなり膨らんでいることが明らかです。
満点が2000人以上いるようです。92点以上だと6000人以上でしょう。物理選択者は15万人ほどですから、5%近く。80点以上は10%を軽く超えるでしょう。
これは物理という科目の特性であり、物理選択者の特性でもあります。物理がある水準以上にできるようになった者にとっては、センター試験・共通テストレベルだと、満点近く取れてしまうのです。
今年の物理の問題について、全体を端的に表現すると、’ flat & half ‘ です。
「フラット」というのは、全問題に難易度の差がないに等しく、これはイージー!, これは結構ムズい!!という問題の起伏がなく、皆んなほぼ横並びだということです。私も順番に解いていって、「さて、どこに勝負問題が来るかな」待ち構えていましたが、何も起こらず終わってしまいました。サスペンスドラマではなく、大した事件が起こらないホームドラマのごときです。
だから、設問の難易度分析は必要ありません。皆んなグレードBです。分かっている人には時々Cレベルが混ざっているように見える、というところです。
化学の問題解析では、難易度のグレード分類をしておきました。まさに山あり谷ありで、解くのはスリリングです。どの大問にもそういう「勝負問題」が入っていて、「来た来た!」と気合が入り、結構楽しませてくれます。「あのタイプの難問をこう薄めて来たか!!」とか、「ついにここまで出しちゃったか!!」とか。
ハーフ?
要するに、物理の問題として中途半端、竜頭蛇尾、ということです。これは、昨年の共通テストから顕著になった傾向です。ふつうの物理入試問題を解く場合、与えられた物理現象をイメージしながら ①物理法則を適用して、②未知数を含んだ式を複数立てて、③数学的に解いて答えを出す ものです。
ところが、計算らしいことをするのは第4問の一部にすぎず、それ以外は、式を立てるどころか、①のイメージの部分だけて答えが出たり、法則や式を選べば済むようになっていいます。日頃からしっかりと物理の問題を解いている人からすると、良く言えば
「イメージするだけで解ける省エネ問題ばかり」てあり、悪く言えば、
「不完全燃焼!! もっとちゃんと計算までやらせてよ、せっかく勉強してきたのに!」
となります。
まさに、中途半端なのです。運動会で、駆けっこも騎馬戦もなく、準備体操とダンスだけで終わっちゃうような、肩透かしというか、握った拳を持て余すというかごときです。
これが文系専用の「物理基礎」ならこれで良いし、文系としては、それで十分エラい!!と言えるのでしょが、「脱ゆとり」アフターの難化の流れにあって、なんだか物理だけ一人取り残されている感が拭えません。だって、数学ではあんなにたくさんの計算を強いられるのに対して、この物理のお手軽さとはギャップがありすぎです。教科ごと、科目ごとの縦割りで問題を作成しており、全体を統括(全ての科目に明るい、オーケストラの指揮者のような)できる人材はいないのだ、というお家事情が見えてきます。各教科で、命名が「新しいコンセプトのテスト」を思い描いで、作った結果がこのようにバラバラです。
ベリー・グッド!!
こんな事情で、化学でやったような解析をする気になりませんし、必要もありません。ただ、作成者を褒めてあげたい設問があります。
物理学における<頂点の法則>である、《運動の法則》の成立過程からの根本的・基礎的理解を問うものです。医・自然系の小論文問題のようなネタです。決して難しくはありませんが、法則式や公式を覚えて当てはめる、というだけの薄っぺらなやり方では面喰らうことでしょう。根本法則の理解の深さを問うているという意味で、教育的良問です。
もし、誤った仮説に基づいて法則をグラフ化したらどうなるか?という「架空の法則」を問うという発想には、問題作成者のセンスと見識を感じます。
こういうのは、共通テストだからこそ出せると言えます。私立医学部のような振い落としのための試験ではボツになるかもしれません。