共通テスト物理 対談
前回の記事で述べまたように、4回目となる共通テスト・物理は昨年同様、高得点者層に偏る分布になりました。そこで、今回は、2024物理問題の解析に当たって、本部GHS新宿校で、物理担当の田川講師と意見交換する形式で話を進めていくことにしました。(田川講師は、GHS本部校の卒生で、京都大学の理学部に合格、体系物理の授業をふまえて大学の物理学を学び、卒後、受験生にその貴重な経験を還流したいとの志で、現在GHSの専任講師として、私が担当していた体系物理の授業を全面的に任せて余りある逸材です。)
田川(T): 今年も昨年同様に、いろいろな意味で易しい物理、となりましたね。第一印象としてはいかがでしたか?
天野(A):化学、漢文、古文とみてきて、昨日ようやく物理と数学の問題を見ました。物理は、昼休み時間にとりあえず最後まで解いてみましたが、んー、第一印象を、喩えでいうなら「皇居一周ジョギング」というところですかね。
T:そのココロは? 安全に、難所もなく、気持ちよく走れるということ、でいいですか?
A:そう。その通り!! さらに、あと一つ付け足すと、皇居は一周5kmですから、7km/hくらいのゆるっとしたスピードで走れば40分ちょっとで走り切れます。二次試験レベルの実力十分なら、このくらいでサッサと仕上げて、10分で見直し、残りは化学を解き始めるという戦略がベストでしょう。化学は、特に第5問が文章が長いので、読む時間をここで稼ぐと丁度いい。
実際に、長野校で見事100点満点を取った生徒がいますが、事前に指南した通りになりましたよ V
T: 新宿校の方でも90点が複数人います。
A:大手予備校で出しているコメントをみると、「昨年と比べて」という話ばかりなので、GHSでは俯瞰してもっと広い視野から分析しましょうか。
共通テストになってから、4回目で、昨年も指摘したことですが、物理に限っては、生物や化学とくらべて、どうも「共通テストの理念・理想」が逆に足枷になっていますよね。これを、共通テスト・物理の「呪縛ルール」(仮名)と呼びましょうか。
どんなルールがありそうですか。代わり番こで一つずつ挙げていきましょう。
T: そうですね。とりあえず、
第1は、法則や公式の導出プロセスの重視・見直し・・・式に当てはめて終わりというのではなく、どういうデータから導かれたかを問うという方針ですね。
A:初年度は、運動の法則の実験的振り返り、昨年度は、速度と空気抵抗の公式のデータによる修正、今年は、弦の定常波による伝導速度のパラメーター関数をデータから求める第3問がそれに当たりますね。では私の番。
呪縛ルール2は、身近な(と感じられる)素材を元に、物理に親近感を持ってもらう・・・・これは数学では物議を醸すくらいに頑張ってやっていることですが、物理にも伝播しています。
T: 化学だったら、身近な素材は、人工的有機高分子を出したり、薬剤の成分などを出せばクリアできるので、自然な感じですが、物理ではそれが「不自然」な頑張りに見えます。今年の水噴射ペットボトルロケットとか、昨年のカップの落下と空気抵抗とか、ネタ探しに苦労しているなーと。昨年、そのうち物理だけはネタが尽きるのでは・・・と危惧していたものですが、本年はペットボトルロケットかと・・・。
A:これは、夏休みの科学自由研究のネタでしょ。あるいは、「〇〇じろう先生のフシギ科学」なんとかでありそうなネタですね。もしかして監修とか出題メンバーに入ってますか(笑)。・・・まあ、かといって、その実験動画なんか見ても、問題解くのには直結しませんので、オススメしません。(笑2)
T:では、三番目のルールですが、
数学計算を極力回避する・・・・・・これは初回から一貫していますが、最も意味がわからないルールです。
物理と数学の表裏一体とも言える関係を、敢えて断ち切る理由がどこにあるのでしょうか? こんなことをすると、二次試験とのギャップが大きくなり、入試物理らしくなく、違和感が際立ちます。
A:私も意味がわからない。高等数学を駆使してこそナンボの物理で、大学での物理学に繋がっていく、本来物理にあるべき「数学と物理の一体性の再生」が、<体系物理>の主要コンセプトの一つですが、この対極に位置するものです。作っている物理の専門家の方々も、あれもダメ、これもダメ、あれを入れろ、これを加えろ、とがんじ搦めの縛りに、忸怩たるものがあるんじゃないかと、むしろ同情さえ覚えますな。
では、4番目。なるべく初見の、定番ではない、見慣れない題材を扱い、「やったことがあるからできる」を排除する。
ペットボトルも当てはまりますすが、これはルール2に含めるとして、今年の問題でいうと、第2問の、磁場+交流で発生する定常波という実験装置。それから第3問の面状抵抗がこのコンセプトです。ただこういうミックス素材というのは物理の入試問題としては一般的であり、むしろ、今までそういう面を押し出してこなかったセンター試験と比較していえることで、私立医学部の問題と遜色ないように見せる工夫かと思いますが・・・。
ルールと言えそうなものは、まだありますか?
T: これは従来のセンター試験と共通ですが、
ルール5 「全分野から満遍なく出す」・・・国家的入試としての宿命
という点も挙げられるでしょう。
A: 文科省指導要領に準拠するのは「宿命」ですから、仕方ありません。・・・・大手予備校の分析コメント見ていると、「全分野から出題されている」と毎年のように判で押したかのように(いや、コピペしたかのようにw)書いてありますが、そんなの当たり前で、分析でもなんでもない。偏っちゃったらそれこそ物議ですよ。そういうときこそ「出題範囲の偏在」と分析すべきでしょう。
T: 大問主義の大学の二次試験だと、「熱力学」なしの年とかザラにあったりして、大学の過去問を見て、分野のヤマ掛けもまあ、意味がありますが・・・・。
『体系物理』テキストでは、1.力学・2.熱力学・3.電子磁気力学・4.波動(力)学・5.量子の力学の順に展開されていきますが、今年の問題でいうと、
・力学は、第1問の問1のモーメントと、第2問のペットボトル・ロケット(これについては各論で触れましょう)、
・熱力学は、第1問の問2のボルツマン定数、および第2問のペットボトル・ロケットの一部、
・電磁気力学は、第4問の点電荷および直流と面状抵抗と、第1問の問3と第3問の問1の電磁気力(ここは被っている。 第1問の問3って必要?)、
・波動(力)学は、第1問の問3の光の全反射、第3問の問2以降の定常波
という配分になっています。
A: 一つの問題に複数分野をまたがせたりして、とりあえず偏りなく問うてますよ、やらなくても平気というような分野は今はありませんよ・・・・以前は現場に配慮して「原子物理・実質免除」とかありました。それでも文句は出なかった。昔、物理Iが範囲だった頃はともかく、2016年以降、理系は、物理全範囲に拡大されたため、会席御膳みたいに、色々な料理がちょんもりずつお膳にのっかっているような、それでは上品すぎるというなら、バイキング形式のように、とりあえずトレイに載るだけ取ってきた時みたいな問題になっていて、さらにそこに時間制限が加わるから、どの問いも「シングルタスク」で、浅いものになっていますね。
T:満遍なく出すというのが足枷になって、浅い感じの問題がずっと並んでいる。たしかに「皇居一周ジョギング」がピッタリですね。 <次回、各問題講評に続く>