あなたがもし教師だったとする。
みんなが普通に合格している無理のない英単語テストを
なかなか合格しない生徒が、
「英単語が覚えられないのですが、どうしたらよいでしょう?」
と相談にきたとする。
特別能力が劣る生徒というわけでもない。
大学の志望はすこぶる高い。
あなたはどう答えるだろうか?
一昔前であれば、
「甘えたことを言ってんじゃない!
覚えるまでやるしかないだろう!」
で済んだであろうし、
「それができないなら、大学をあきらめるんだな…」
でよかったのである。
それでもついてくるやつが生き残る、
競争とはそういうものであり、
弱肉強食、適者生存が生物の掟(オキテ)なのだ。
そうした厳しい環境にあればこそ
人間は生き残るための努力をし、創意工夫を編み出して
たくましい力をつけていくものなのであるから。
しかし、それがなかなかできない時代になっているのが
今日の現実である。
子供のころからやさしく育てられてきているものを
ここへ来て突然突き放される教育を受けたら
そのままつぶれていくことが見えすぎているからである。
それを分かりきったうえで突き放すことなど
私などはどうしてもできないのである。
運動会で手をつないでゴールさせる幼稚園を
笑える立場にないと言えよう。
ときに手を差し伸べ
ときに突き放してみせる
それが教育の極意だと言えば
言葉では簡単なのだが
その妙には大変な神経の消耗がある。
頭髪が少なくなってくるのも
蓋しやむを得ぬことなのであろう。