文学が10代の若者にとって

その人間としての心の形成上重要であると述べてきた.

とは言え,文学といってもいろいろある.

若者がまず読むべきはいわゆる「古典文学」であろう.

要は「世界・日本文学全集」に収められているようなものである.

現代作家の「小説」は後回しでいい.

歴史的に消えることなく残ってきた「古典文学」は

人間としての普遍的な価値があればこそ現代まで読み継がれているのである.

現代の小説は現代の病を反映して

心の機微に入りすぎた繊細なものが多い.

それを笑い飛ばそうとする軽薄な小説も

同じメダルの表裏の関係でしかない.

若者はもっとスケールの大きい,

もっと本質的な人間の精神を問題にした文学をこそ

まず読むべきである.

そういう意味では歴史小説もいい.

ちまちました現代であればこそ,

古今東西の普遍的な人間精神と交わる必要がある.

十代に肉体を鍛えなければたくましい肉体をもてないように,

健康的な志を持てる健全な精神も

多感な十代を逃しては創る機会がない.

若者が当たり前に文学を手にしていた昔を

もう一度取り戻したいものである.

今日本社会が抱えている様々な問題は

事件が起こるたびに刹那的な対処療法を考え,施していくという

モグラ叩きを繰り返していても解決しないのであって,

もっと根本的なところから日本人の心を豊かにしていく素地を作っていくことが

遠回りなようで近い,本質的な解決策であると思う.