歴史を振り返ると、

市民革命以降、やっと基本的人権が確立され、

それ以後に生まれた現代人は実に幸せである。

それ以前は、庶民は為政者の横暴をどうすることもできず、

多くの理不尽を呑み込み続けなければならなかったのであるから。

しかし、権利という概念を獲得した現代人は、

新たな問題を抱え込んだように思える。

「自意識」が重荷になって、押しつぶされそうなのである。

「権利」を獲得したのは良いものの、

今度は自分が偉くなりすぎたのである。

現代病とされる精神的な病の多くは

「自意識病」だと私は思っている。

かつてケネディが大統領就任時に演説した

「国が自分に何をしてくれるかを考えるのではなく、

自分が国に対して何ができるかを考えようではないか」

も、肥大した自意識へのひとつの戒めと取れようが、

私小説の伝統を持つ日本では

これがもっと深刻で閉鎖的である。

最近の受験生に多い悩みも

自意識につぶされている悩みである。

新聞の社会面を賑わす

簡単にカッとなり、人を殺してしまう事件の多発も

自分が偉いからである。

いじめの陰湿化や引きこもりも

根は自意識にある。

病気とまでは至っていなくとも

「自意識病」予備軍はたくさんいる。

というよりは、現代人のほとんどが「自意識病」予備軍であろう。

現代人に「己をむなしゅうせよ」と言っても無理である。

しかし、前々回触れたように

少しでも、「世のため、人のため」を意識し続ければ

そして、実際ささやかにそれを実践していけば

今よりきっと楽になるはずである。

なぜなら、それが自意識から目を離す

もっとも賢明な方法だと思うからである。

まさに「情けは人のためならず」なのである。

あからさまに、「世のため、人のため」を唱えても

違和感があるにちがいない。

暗黙の「世のため、人のため」の輪を

広げていけないものだろうか?

世のため、人のために、そしていずれは自分のためにも。