私が敬愛する年長の知り合いのお母様が今年97歳を迎えた。
まだアタマもしっかりされている。
先日膝を痛めてある病院に入院し、膝は回復したのだが、
何分高齢であり、別の病院に転院の運びとなった。
その際、今いる病院から次の病院に申し送りが行われるのであるが、
患者に一つ問題があるとされたという。
病院では排泄の際はナースコールで係を呼び処理するルールになっているのだそうだが、
ナースコールをせず一人でやろうとするのがルール違反で問題だということらしい。
「ルールを守らない患者」とのレッテルが張られ、
転院予定先の病院から、「受け入れるかどうか検討の余地あり」とされたという。
私はその話を聞いて本当にこの国はおかしくなってしまったのだな、と愕然としたことである。
老人は人であり、物ではない。
むしろ私たちよりも人間の尊厳や、人としてのたしなみをしっかりと教育されて生きてきた先輩なのである。
何歳になろうと、下の世話を他人にやってもらいたくはないのであり、
またできるだけ他人に面倒をかけまいと心を砕くからこそのその行為なのである。
そういう思いに心を寄せるどころか、機械的に規則違反としか見れない今の日本人とは何なのだろうか。
いやたまたまその病院がということではなく、
似たような話がそこここにあるからの一般化なのである。
「日本人はやさしい」という言葉を時に聞くが本当だろうか。
それは表面的でしかないのではないのか。
昔の日本人の話ではないのか。
よく高齢者を幼児のように扱い、声掛けしている様子を見かけるが、
何か勘違いしているのではないか。
高齢者は幼児ではない。
人生の荒波を渡って生きてきた矜持をもってなお今を生きているのである。
現代日本人は、人間の本質がどこにあるのかを急ぎ問い直すべきではないか。
本当の意味で人間の心というものを大切にし、
物質的な豊かさではなく、心の豊かさを共有できる社会を創ることを
真剣に考えるべきではないか。
このままでは、物事を浅く、形式的にしか捉えられない愚かな日本人、
愚かな日本国が出来上がるような気がしてならない。