曇天のある日、電車に乗っていると、
7人掛けの一番真ん中に座っている若い女性(20歳そこそこか…)が
自分の目の前の床にビニル傘をを無造作に横倒しにおいている。
ビニル紐できれいに括ることもなく、いかにも手に持つのが面倒と言わんばかりに投げ出されてある。
まだ雨が降っていなかったので、ビニル傘も床も濡れてはいない。
車両は座席がすべて埋まっているが
立っている人はほとんどなく、扉の付近に一人、二人(その一人が私なのだが)の程度。
人それぞれの感じ方であろうし、
ましてや法や乗車規則に違反しているわけでもない。
しかし、
横に置かれたビニル傘は一定の長さがあるから
両隣の乗客の足元に“バリケード”を築いている。
電車の床には、発着のたびに車両を前後ろに流れる風で
よく綿ゴミや毛玉が動き回っているものだ。
見えないながらそれなりの砂や土もあろう。
静電気でそれらを吸いつけたビニル傘を雨が降ったら外で開くのであろうか?
20歳そこそこのこぎれいにした女性が無頓着にビニル傘を電車の床に寝かせておくのかぁ・・・
との物言いをすれば、今の時代は叱られるだろうか。

GHSは月曜日は週間テストの日である。
3つの教室を使って行う。
私がまずひとつの教室で単語テストの問題を配り終え、
次に隣の教室で配ろうと移動すると女生徒Sが
「先生、問題が一枚足りません!」と追い掛けてきた。
その生徒は後ろから二列目の席の生徒である。
私は問題用紙を一番前の列の生徒に人数分渡して
前から後ろに流してもらうようにしている。
その生徒は一番後ろの列ではないが
自分のところで後ろにいる人数からいって一枚足りないのに気づき
自分だけ取らずに後ろに問題を渡して私のところに自分の分を取りに来たということなのである。
周りが見えていて、気遣いができる。
しかも、
単語テストだけは問題が回ってきた順に始めてよいルールにしているので、
自分だけ始めるのが遅くなることになる。
にもかかわらず! なのだ。
こういう生徒がうちにいるということが私はうれしい。
「ごめん。ごめん。」と謝って、Sさんに問題を渡し、一緒に教室に行ってみると
みんながルール通り、必死にテストに取り組んでいる中で、
Sさんのすぐ後ろの座席の女生徒Iが、まだ問題に手を付けていない。
自分たちのためにSさんが自分の時間のロスを顧みず問題を取りに行ってくれたことの意味を
Iさんは理解しているのだ。
Sさんがやり始めるのを待って彼女も始めた。
彼女たちはきっと良い医師になるに違いない。
将来の職場で周りの人々から必ず信頼されるだろうし、
上司からは仕事を任せられる人物として重用され、
よい仕事をしていくであろう。

それにしても配る枚数を間違えた私が一番の問題である。
こんなに良い生徒に囲まれていることを再認識しながら
大いに自分を反省させられた月曜日であった。