近年世間を騒がせ,

人々が眉をひそめているニュースの多くは

「それでも人間か!」と叫びたくなる類のものである.

それは「人間としての心」を持っていないということへの

驚きの表現であろう.

人間は残念ながら生まれつき「人間の心」をもっているわけではない.

「人間の心」を持って生まれてくるわけではないのである.

普通は20歳までに,

強制的にであれ,いつの間にかであれ,

教育されて「人間の心」を創る.

しかし,大人たちは経済的利益の追求に余念がなく,

親は勉強,勉強と子供に無理強いし,

子供はビデオゲームに夢中・・・

といった社会風潮が蔓延すれば

「人間の心」を創る時間がなくなる理屈である.

「人間の心」を失った事件が次から次へと起き続けるのは,

「蓋し,むべなるかな」なのである.

今の日本は,文学を失った社会である.

大人たちの社会については措くとして

子供たちの社会から文学が消えた影響は大きい.

今,中学,高校で国語の授業がまともに成立している学校が

どのくらいあるであろうか.

電車の中で本を読んでいる学生を見掛けはするが,

文学を読んでいる学生はめったに見かけない.

多感な十代を,文学書に触れずに終えてしまうことの損失を

改めて考えてみるべきであろう.