私は,あまり文学に関心がない.

これは,自分の欠点であり,不運だと思っている.

子供の頃,文学に接する機会を逃してしまったのである.

それを自覚して,大学の2年間,

つまり教養学部時代は,できるだけ小説をよんだ.

漱石や鴎外を読んだのも,遅ればせながらこの頃である.

小林秀雄が好きで,

浪人のときに東大仏文科の存在を知った.

知性豊かでありながら,遊び心があって

おおらかというか,健康的というか,

そういう視野の広い知的集団としての東大仏文科

(小林秀雄の時代であるが・・・)

を憧れを持って見つめたものである.

辰野隆という遊び心旺盛な,懐の深い、

しかし,勿論優れた実力を持った先生の下に

渡辺一夫,小林秀雄の二大秀才がいて,

この二人も人物が大きい.

森有正、中島健蔵、鈴木信太郎、

今日出海(今東光の弟)、三好達治・・・。

そこに,医学部の加藤周一(評論家・ご存命)が遊びに来ていて

中村慎一郎もいるという,多士済々ぶりである.

なお,大江健三郎はやや後の世代になる.

岩波新書の『羊の歌』(加藤周一著)は

そうした健康的な知的俊秀集団の香りを嗅いで見るのに

よい本だと思う.

もはや小林秀雄を知らないと答える現代の受験生には

読み通してもらえないかもしれないが

『思考訓練の場としての英文解釈』に学ぼうとする受験生が

増えている由.

もしや,受験が済んだ来春にでも

『羊の歌』を面白く読んでくれる若者もいるのではないか

とのかすかな期待がある.

ここに紹介する所以である.