多田正行先生とのつながりについて述べておきたいと思う。
通信添削オリオンは添削していただく先生を指名できる制度に特徴があった。
当然多田先生は人気であり、指名して添削してもらえるとは限らない。
私は最初から指名制度は使わなかったので
オリオン時代に多田先生との接点はなかった。
直接の指導はいただいてないが、
当時『思考訓練の場としての英文解釈』はオリオン会員のみが購入できる参考書で
有名であったから急ぎ買い求めた。
まだ第1巻しかなかったのだが、
徹底して学習した記憶がある。
時が流れて
多田先生と長い親交がある育文社の山田社長から
「今多田先生が町田の病院に入院していて、紹介したいから一緒に行きましょう」と連絡が入り
駆けつけたのである。
多田先生の妹さんがその病院に勤めておられ
これから郷里の徳島の病院に車で移動するということであった。
長旅に耐えて多田先生は無事帰郷されたのであるが、
少しして訃報が届いたことである。
私が病院でお会いした時、
多田先生の築き上げた知的財産を後世に責任をもって伝えていく旨、お伝えした。
それだけに今回『ORION』を京都大学で保存していただく流れになったことは
先生に一つ報いえた思いである。
多田先生が残したものは何か。
『思考訓練の場としての英文解釈』に学んでも
英語がペラペラしゃべれるようにはならない。
共通テストの膨大な量の英文を速読するという点でも
あまり有効ではないだろう。
では、多田先生は何を教えていたのか。
英語を通して、
外国語と母国語を行きかうことを通して
人間として可能な限りの知性と思考を注ぎ込む営為であったのではないか。
それが言語を通してのみ可能であることの実践だったのではないか。
私はたった一回の、最初で最後の多田先生との対面で
継承をお伝えしたのはそのことであった。
「思考訓練の場としての・・・」は多田先生の命名である。
